飯田最後の個人書店が閉店

地域の話題

[ 2021年 4月 22日 木曜日 15時23分 ]

 飯田市東中央通の「白竜書店」が3月末、閉店した。同市で唯一残っていた個人経営の書店だった。飯田下伊那地域の小中学校に本や辞典を販売していた同店。店主の酒井丈之(ともゆき)さん(67)は子どもたちに「心を豊かにする良質な本を読んでほしい」と願っている。

 白竜書店は1955(昭和30)年、丈之さんの父綾夫さんが開店した。綾夫さんは子どもと本が好きで「子どもたちに良い本を読ませたい」との思いで始めた。白竜の店名は、綾夫さんがシベリア抑留から帰国した際に乗っていた船「白竜丸」から取った。「戦争の苦しい思いを乗り越える」という意味も込められていたという。

 綾夫さんは南信濃和田出身で、祭りの際にはリュックいっぱいに本を背負い、遠山郷まで行って本を並べた。本の見本を見せるため、売木村まで2時間かけて出掛けることもあった。

 ある時、講談社の営業マンが児童文学全集を売りに来た。他ではけんもほろろに断られていた本だったが、綾夫さんはその良さに気付き販売。その後にこの本は人気になった。営業マンは後に同社の重役となり、同店にあいさつに訪れたという。

 丈之さんは2代目として、店頭で雑誌や文庫などを売る一方、主に小中学校に国語や英語などの辞典を販売。また、学校の図書館に本を販売した。入荷に早く対応し、本を早く届けることを心掛けた。きめ細やかな対応で喜ばれていた。

 閉店のきっかけの一つは、姉悦子さんの死だった。外国に住み、日本に来た際には書店の仕事を手伝ってくれ、「とにかく元気な人だった」。しかし、ALS(筋委縮性側策硬化症)にかかり昨年3月に他界した。丈之さんも病気を患い、「姉の死を見て、毎日忙しく追われるような日々を送り続けていいものか、これからの人生を考えさせられた」。

 悦子さんは体が弱っても明るく毅然としていた。そこには聖書の存在があったという。「一節に『復活』の言葉がある。姉は聖書の希望の言葉に救われた」と丈之さんは感じ、「希望の教えを伝えることで、少しでも悩んでいる人を助けたい」と、残りの人生を聖書を広めていくことに決めた。

 また、取次店が大手に吸収されたことで、本の入荷のミスが頻発するようになり、入荷への迅速な対応ができなくなってしまったという。「全体として出版業界が苦しい中、大手が薄利でサービスを展開するので、個人書店では太刀打ちできなくなってしまった」と語る。

 閉店の報を聞き、学校の先生方から惜しむ声をたくさんもらったという。手紙の多さにびっくりするほどで、来店して花束を渡してくれた人もいた。「学校でも本は地元の書店からと配慮してくれていた」と感謝する。

 出版社から本の見本が送られるが、閉店後、見本の本7箱分を飯田市丸山町の児童養護施設風越寮に寄贈した。

 丈之さんは「その場の人気取りの軟派な本が目立つ」と現在の出版業界の現状を嘆きつつ、「本は人格形成につながる。子どもたちには心動かされる古典や名作、励みになるノンフィクションなど、少しでも“良質な”本を読んでほしい」と願った。

◎写真説明:東中央通の白竜書店。父綾夫さんが書いた字をそのまま看板にした

  

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