
アルバム3枚がLP盤で“復刻” 松尾&亀本が喜びと野心を語る
【取材・文=仲井勇司】
8月に開催された野外音楽ライブイベント「フジロックフェスティバル’21」(新潟県湯沢町)に出演し、大きな成功をおさめた飯田下伊那地域出身のGLIM SPANKY(グリムスパンキー=松尾レミ&亀本寛貴)。コロナ下での実施に異論も聞かれたフジロックでしたが、その後グリムの二人、所属事務所スタッフとも無事に帰京。以前と変わらず健康な状態であることが伝えられています。
一つのヤマ場を乗り越え、次に気になるのはグリムスパンキーのアルバム3作品がアナログ盤(LPレコード)でリリース(発売)されるという話題です。
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グリムのオリジナルアルバムは5作品あり、CDとデジタル配信、二つの方法で販売されています。そのうち2作品はすでにLP盤の形でもリリース済みでしたが、残る3作品=写真=についても今回、音楽ソフト販売大手のHMVから「HMV record shоp 新宿ALTA」のオープン5周年記念企画としてアナログ化が実現。10月6日に3作品とも同時発売され、晴れて5作品全てのアナログ盤“復刻”リリースが実現します。
こうしたLP盤での発売を、オールド志向でも知られる二人が大いに喜んでいるのはいうまでもありません。ただ、音楽の聞き方・買い方はデジタル配信が主流となり、特にスマートフォンの圧倒的な普及にともなって“サブスク”(サブスクリプション=1ヵ月ごとの定額課金制で多数の楽曲配信を受ける購入方法)の利用が急拡大している状況。
そうした点もふまえ、二人にそれぞれの受け止め方を尋ねました。
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亀本さんは、主流化した配信リリースとの対比でCD、レコードの重要性に言及。
「(2020年にシンガーソングライターの)米津玄師君が出したアルバム(STRAY SHEEP)はCDだけで150万枚ぐらい売れましたが、最近町を歩いてた時、そのCDが、止まっていた軽自動車の運転席のところにポンと置いてあるのを見かけたんですよ。どこにでも走っていそうな、ほんとごく普通の主婦の方とかが乗っていそうな感じの“軽”の運転席に。その時、ふと感じたんですよね。『ああ、150万枚売れるってこういうことなのか』と」

CDが売れない、主流はサブスク―。そういわれる時代にあって「ごく普通の人たちがミリオンセラー(売り上げ100万枚以上)級のCDを車の中で聞いている」という亀本さんの気付きは、ある種の示唆を感じさせます。
「グリムの音楽は地方の方々にもたくさん聞いていただいているし、東京と違って地方は車社会でもある。運転中に聞かれることも考えると僕らにはCDもすごく重要だなと思う」とした上で、「アルバムが完成したらレコードも常に出せるという形になるのが理想かな。配信、CD、レコード。アーティストのマネタイズ(収益化)の方法はまだまだ変わっていきそうですけど、だからこそ全部レコード化されるのはすごく嬉しいし、重要だとも思います」と結びました。
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松尾さんはレコードの「物」としての価値を重視。特にレコードのアートワークについて意欲を語りました。
「大学(日大芸術学部)でデザイン学科に通ってたのも、レコードジャケットのデザインをやりたいという気持ちから。こうして自分の音楽がレコードという形になると“ジャケットのデザインも自分でやるぞ”っていう夢の実現につながっていきそう。だから嬉しいです、めっちゃ!」
実はHMVからグリムのレコードがリリースされるのは18年8月以来二度目のこと。きっとアナログ盤の企画担当者はグリムのファンでもあるんだろうな…。そう感じて言葉を掛けると、松尾さんは「嬉しいなあ、もしそうだったら嬉しいなあ」と満面の笑み。
亀本さんがプロデュース視点でクールに今後を見据えた一方、松尾さんは一人の純粋な音楽ファン・レコード愛好家に戻ったように明るく声を弾ませました。
【毎月第3日曜日掲載】