柳田國男記念伊那民俗学研究所の市民研究員が研究成果を発表する第5回伊那民俗研究集会が20、21の両日、飯田市東和町の丘の上結いスクエア内「ムトスぷらざ」であった。今年は「民俗と食文化」をテーマに食を通じた地域文化の個性を探った。
同研究所は、市美術博物館の付属施設柳田國男館を拠点に1990年に設立した会員制の民間団体。「研究所」の名を関しているが一般市民を中心に運営しており、調査研究や学習会、出版などを通じて市民が自発的に学ぶ「野の学問」を実践している。
研究集会は昨年に引き続き、南信州民俗芸能継承推進協議会と共催で開催した。感染予防のため会場の人数を制限し、動画配信とともに実施した。
会の冒頭、主催者を代表して和合念仏踊り保存会長で民俗芸能継承推進協議会長の平松三武さんは「肥料が大幅に値上がりし、野菜も値上げになりそう。昔は祭りや正月、全ての食事を地域のもの、自分で作ったものでまかなってきた。改めて地産地消が大切になる時代が来る」と語った。
同研究所の所長で國學院大學教授の小川直之さんは、食が民俗芸能とともに地域個性を担う文化だと強調。「人間が支える無形のものとして未来に残していきたい」と思いを語った。
「食は命をつなぐためだけの行為ではない」と小川さん。食材や調理法、食べ方などさまざまな場面の食に意味づけがあることをはじめ、飢餓回避や祖先供養・信仰などとの関わり、列島文化の中での位置づけなど食に関わる文化的側面を解説し、地域の食の文化としての価値や魅力を伝えた。
県立大学の中澤弥子教授は、県内の郷土料理と食文化の伝承について講演。2013年の「和食」ユネスコ無形文化遺産登録に触れ「調理法や料理だけでなく社会的な慣習を含めた和食文化が世界の多様な文化の一つとして認められた」と紹介した。
1941年に行われた食文化研究を基に2002年に県内で行った食文化調査や県内で消費される「塩丸いか」の調査などから、生活様式が変化しても地域独特の食を継承しているとして「長野県の人たちは食べることを大事にしている」と語った。
この他、会員の宮下英美さんが米節約で始まった「かて飯」について、北原いずみさんが武士と農村の年中行事食について研究発表。翌21日は、近藤大知市美博学芸員が飯田藩士の日記に登場する和菓子について、天龍村の関京子さんが年中行事と郷土料理について、清内路の櫻井道治さんが伝統野菜の栽培ついて、阿南町和合の吉田弓さんがコンニャク栽培についてそれぞれ事例発表した。
このうち関さんは、リモート出演。春に草もちなどで食べるヨモギは、冬の間に体にたまった悪いものを取り除くなど、聞き伝えた食の意味を紹介。「季節ごとに地域で採れるものがその時々の人間の体に必要なもので、おいしいもの」だとして昔からの行事食の大切さを訴えた。
講演の様子は、動画投稿サイトユーチューブの伊那民俗学研究所のチャンネルで視聴できる。
◎写真説明:食文化テーマに研究集会