飯田市の遠山郷(上村、南信濃地区)に伝わる湯立て神楽「遠山の霜月祭り」(国重要無形民俗文化財)で、南信濃木沢地区の正八幡神社で10日、3年ぶりに湯立てや舞が披露された。地区在住者と出身者でつくる「木沢霜月祭り保存会」が運営を地元自治会から引き継ぎ、復活に向けて尽力。威勢のいい神楽歌と笛や太鼓の音が地域に戻った。
新型コロナウイルスの影響で、同神社では2020、21年と祭りを簡素化して神事のみを実施。コロナ禍に加えて自治会員の減少と高齢化で運営が難しいことから、自治会は今年も神事のみとする方針を5月に固めたが、保存会が「運営を引き継ぎたい」と手を上げた。
舞や笛、太鼓などの継承に努めていた保存会もここ15年ほど活動が停滞していたが、同神社の禰宜の仲山岳典会長(60)や、祭りの継承を目指す地区内外の有志でつくる「木沢霜月祭り野郎会」会長の木下隆彦さん(51)ら20~80代の15人が集まり再始動。「このままではいけない」と熱意を伝えた。
8月、運営を引き継ぐことが決定。保存会が祭りを取り仕切るのは初めてで、平日に仕事があるメンバーがほとんどなことから、早めに準備を始め、休日を使ってしめ縄づくりやまき割りなどに取り組んだ。地区の伝統を崩さないように―と自治会員に指導を仰いだ。
10日は午後1時から祭りが始まり、神楽歌で祭場を清めて神々が訪れる道を開き、「神名帳」を奉読。全国66カ国の一宮を迎えいれた。
その後は舞殿の中央に設けられた煮えたぎる湯釜を囲み、保存会や野郎会のメンバー計30人が笛や太鼓を奏で、湯立てや舞を繰り返した。日が暮れるにつれて地域住民や観覧者も数を増し、3年ぶりの復活に沸いた。
仲山会長は「ようやくこの日を迎えられた。これでしばらくは継続できる」と笑顔。昔ながらの準備の仕方を指導した自治会役員の松下勇さん(70)は「やっぱり祭りはいい」と目を細め、「なるべく伝統を崩さず、長く続けてほしい」と期待を寄せた。
木沢地区全体では、かつて6つの神社で祭りが行われていたが、現在も続いているのは同神社と小道木の熊野神社のみになった。木下さんは「一度休止すると復活させるのは難しい」と強調。「何とか今年復活させることができて良かった。これを絶やさないよう、以下に継続させていくか考えなければいけない」と話していた。
◎写真説明:3年ぶりに行われた「湯立て」