飯田市の遠山郷(上村、南信濃地区)に伝わる湯立て神楽「遠山の霜月祭り」(国重要無形民俗文化財)が3日、南信濃木沢小道木の熊野神社と上村中郷の正八幡宮を皮切りに始まった。湯釜を囲み、八百万の神々を迎えて生命力の再生を祈るとされる湯立て神楽に興じる祭りで、今年は18日まで計8神社で繰り広げられる。
熊野神社は今年も引き続き一般観覧を制限し、時間を午後9時までに短縮したが、氏子や有志らが威勢のいい神楽歌に笛や太鼓の音を響かせた。
午後6時半ごろからは面を着けた氏子らが社殿内に登場し、舞を披露。4人の氏子が湯釜の周囲を荒々しく跳びはね、最後は無理やり拝殿に押し込まれる「四面」や、煮えたぎる湯を素手で周囲にはねかけ1年の邪気をはらう大天狗(火の王)、小天狗(水の王)の登場に沸いた。
地区内外の有志でつくる「野郎会」の木下隆彦会長(51)は「時間厳守での進行は大変だったが、皆さんの協力とメンバーの頑張りで何とか終えることができた」と感謝。禰宜の鎌倉博登司さん(84)は「氏子が30軒くらいになる中、地区外からも参加者がいる保存会や野郎会の人たちのおかげで盛大にできた」と喜び、「来年こそはコロナが収束し、制限なくできれば」と話した。
今年も地元遠山中学校の生徒たちが祭りに参加。集まった多くの地域住民を前に「四つ舞」を堂々と披露した。初めて参加した3年の男子生徒(15)は「練習期間が短く不安もあったが、指導してくれた地域の方のおかげで踊りきることができた」と語った。
鎌倉時代に伝えられた宮廷の湯立て神楽に、かつて遠山郷を支配した領主で一揆によって滅びたとされる遠山土佐守一族の死霊を慰める鎮魂の儀式が後に伝わり、独自の形式で伝承されている。「霜月」の名称は旧暦の11月に行われることに由来し、年間を通じて最も日照時間が短くなる時期に神々を招いて祈りを捧げることで「万物に再び生命が蘇る」と信じられている。
新型コロナウイルスの影響で、昨年は両地区ともに一般観覧を制限してたが、上村地区が3年ぶりに制限なしで一般観覧を受け入れる。南信濃地区は一般観覧を飯伊在住者と通勤通学者に限って開催する。
◎写真説明:湯を素手ではらう「湯切り」