飯田市の遠山郷(上村、南信濃地区)に伝わる国重要無形民俗文化財の湯立神楽「遠山の霜月祭り」が5日、上村の中郷正八幡宮と南信濃小道木の熊野神社で幕を開けた。今月中旬まで両地区内の各神社で行われるが、新型コロナウイルス感染防止のため、いずれも一般客の見学を受け入れず、飯田下伊那地域の氏子のみで執り行う。神楽舞や湯切りなどの古典祭を縮小、中止する神社もあり、夜を通して興じ、多くの見物客が沸く例年とは雰囲気の異なる祭りとなる。
例年は午後から始めて深夜まで続けている小道木の熊野神社は、午前中から執り行った。時間短縮のため古典祭を縮小しつつも、舞殿の中央に設けた二口のかまどで湯を立て、霜月祭りの代名詞となっている大天狗(火の王)、小天狗(水の王)による湯切りで邪気をはらった。
祭りの進行役「湯木」を務めた平澤一也さん(37)によると、祭りを張り合いに1年間頑張ってきた人たちも多く、「縮小が地域の活力低下につながるのは悲しい」「コロナ禍であっても対策を徹底し、できる限りのことをしたい」などの声が出て、あり方について検討を重ねたという。
平澤さんは「地域の協力と理解により、例年とは異なる形ではあるが古典祭までできたことはうれしい。これまで培ってきたさまざまなつながりを、最小限ではあるが維持することができたのは、今後の祭りの継承を考える上でも大事なこと」と強調。「厳しい環境の中でも祭りを行った地域の意気を、記憶に残してもらえたら」と話した。
また、禰宜の鎌倉博登司さん(81)は「湯立舞を短縮して行うなど不本意な形ではあるが、氏子の一生懸命な姿や笑顔を見ることができ良かった。来年は例年通り、にぎやかにできることを願うばかり」と話した。
コロナの影響で祭りに参加できない県外在住の出身者らにも雰囲気を伝えようと、同村和田の西森皇謙さん(24)は祭りの様子をライブ配信した。中学2年生の時から村内各神社の祭りに携わり、「地元の素晴らしい祭りを何としても残したい」と強い思いを抱く。「祭りを中止する選択をしなかったことがうれしい。コロナ禍でも工夫しながら祭りを継続する姿を、多くの人に見てもらいたい」と話した。
◎写真説明:湯釜を囲んで4つの舞