松川町福与のふる里ふれあい館で12日、飯田市龍江に伝わる人形浄瑠璃「今田人形」(国選択無形民俗文化財)の公演があった。福与住民の調べで、190年ほど前に途絶えた「福与人形」の人形などが今田人形座に売却されたことが分かり、この日は「里帰り公演」と題し多くの住民を楽しませた。
福与の北林皎さん(70)は、小学校5、6年のころ、地元のお年寄りから福与人形と今田人形とのつながりについて聞いたのを記憶する。1991(平成3)年、同様の内容が紹介された新聞記事が目に止まるとお年寄りの言葉を思い出し、ことしに入って独自に調査。1888(明治21)年に福与人形が今田人形座に売却されたことを裏付ける規約書の存在を確認できた。
売却は福与人形で使われた衣裳や頭、鎧、人形の手足、陣羽織、小道具、囃子道具など二百数十点に上るが、今田人形座に残っている道具のうちどれが売却されたものかは分からない。
この売却から125年が経過した。売却の経緯を知った今田人形座の協力で今回、公演が実現。えびす様が豊漁や豊作、世界平和やお家繁盛を祈りながらお神酒を飲み、幸福を運んでくる「戎舞」、能の翁を義太夫節に取り入れた祝いの曲「寿式三番叟」などが披露されると、会場に詰めかけた多くの住民らから拍手が送られた。
北林さんは「60年前にお年寄りから聞いたことが証明され感無量の思い。大勢の協力と理解で125年ぶりの里帰りを果たすことができ、最高の喜びです」と話した。
北林さんによると、福与人形は230年ほど前の天明年間、淡路国の竹本鶴太夫が旧福与村を訪れて村人に人形を教えたのが始まり。地元の三柱神社にあった舞台で公演され続けたが、その後途絶えた。