林悠司さん所有・丹阿彌岩吉の短冊

文化・芸能

[ 2019年 8月 1日 木曜日 15時30分 ]

 古い記憶とともに保管したままだった短冊の存在を思い出し、その価値に目覚めた人がいる。俳人協会長野県支部常任理事で飯田下伊那俳人連盟顧問を務める林悠司さん(90)=飯田市川路=だ。

 縦長画面の下から中程にかけ、ぼかしの効いた露草の葉が均整を保って伸びる。葉先には身を隠すようにして咲く、しとやかな青い花―。飯田に疎開していた日本画家、丹阿彌岩吉(たんあみいわきち)(1901~92年)が描いた「露草」の短冊である。

 裏面に林さん本人が記した「一九五〇年五月二十五日」の覚書がある。記憶をたどると、丹阿彌一家が飯田を離れるときの送別会で、林さんが求めた一筆画だ。

 林(旧姓・福島)さんは20代のころ、松尾村(現飯田市松尾)の実家と隣り合わせの、福島家に疎開していた丹阿彌親子と顔見知りだった。とりわけ丹阿彌とは親しく接し、その面影は今も鮮明だ。

 「先生は小柄な体格ですが、何ともいえぬ奥ゆかしさと厳粛さを感じさせる人でした」と林さん。

 一家が疎開していた終戦直後は舗装道路もなく、道端の野草は日本古来の在来種ばかり。丹阿彌はそれらの草花を慈しむようにして、よくスケッチしていたという。

 強烈な印象として残るのは丹阿彌の和装の姿だ。公家衆が蹴鞠のときに愛用したとされる「裁着袴(たっつけばかま)」を着用し、畑の周辺や家の近くの小道をよく散策していた。

 丹阿彌家が、古くは禁裏や幕府に漆業者として出入りする家系だったことを鑑みれば、裁着袴が似合うのは当然かもしれない。

 林さんは一筆画を依頼した時のやり取りも鮮明に思い出す。当時、「泉会」という地元の句会に参加して句作に励む日々だった林さん。

 そのことを知る丹阿彌は、林さんの求めに応じてこう返した。「いいでしょう。悠司さんは俳句だから短冊に描きましょう。ボクが短冊へ描くのは悠司さんへだけ。これから先、短冊へは描かないから」

 翌日、丹阿彌は約束どおり短冊に、一筆どころか丁寧な写生画を描いて渡してくれたという。その誠実な対応が今も心を打つ。

 林さんの懐かしい記憶を揺さぶったのは、飯田市美術博物館の丹阿彌親子展を告げる本紙記事だった。「この短冊は今にして思えば天下一品と感謝するしだい。展覧会のことも先生はきっと喜んでおられるに違いありません」と笑顔で話した。

 戦中戦後の5年間、飯田で疎開生活を送った丹阿彌岩吉(1901~92年)と次女で銅版画家の丹阿弥丹波子さん(92)=東京都杉並区=による当地初の親子展は、飯田市追手町の市美術博物館で開催中。18日まで。

◎写真説明:短冊を手にする林さん

  

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