JR全社と県などが来年10―12月に行う誘客事業「信州デスティネーションキャンペーン」(信州DC)を前に、転換期を迎えた温泉地をはじめとする観光地の生き残り策を探るシンポジウム「温泉地が危ない―将来を見据えての布石」が8日、阿智村の昼神温泉観光センターで開かれ、3人のパネリストから全国の温泉地が置かれた状況と必要な手だて、昼神温泉の外部評価、信州DCを生かすための提案などを聞いた。パネリストは異口同音に、一般住民を巻き込んで「もてなしの心」を発揮できればDC効果が期待でき、地域間競争に勝てる―と話した。
シンポジウムは同村の観光関係者などでつくる実行委員会が主催し、飯田下伊那の約100人が来場。県観光部の久保田篤部長と松本大学総合経営学部の佐藤博康教授、首都圏対象の昼神温泉郷旅行プランを扱うJR東日本東京支社の橘修営業部長をパネリストに迎え、岡庭一雄村長が司会を務めた。
温泉地の全国的傾向について佐藤さんは「旅行者の嗜(し)好が変化したのに受け入れ側は変わらず、両極化が顕著」と分析した上で、「地域にホスピタリティ(訪問者をていねいにもてなす心)があれば客は来る。食べ物と風呂、ハコモノという温泉地の武器を乗り越えた客の増加を踏まえた対応が必要」などと指摘した。
“昼神温泉の応援団長”の自覚がある橘さんは、団体から個人に大きく傾いている新しい流れに対応するためには、信州DCと積極的にかかわると良いと説いた。
その中で「誘客効果が翌年以降も持続するDCは、開催期間中より準備と終了後の継続的な取り組みの方が重要」と強調。住民が「もてなしの心」を発揮できた地域が、前後してDCを開催した他県に勝てる―とした。
久保田さんも「DCは県の観光にとってまたとないチャンスだが、他力本願的な発想からの脱却が必要。昼神だけが頑張るのでなく、周辺が関与することが大事で、その結果がもてなしの心につながる」と話し、「さわやかにもてなそう県民運動」への参加を要望。「永続的に取り組むためにも民間に立ち上がってほしい」と訴えた。
佐藤さんはもてなしの心を「わくわく感」「ハピネス」と表現。「これが提供できれば世界一になれる」と断言した。
昼神温泉郷とエリアサポートの外部評価について佐藤さんは「県内の温泉でブランド力があるのは昼神と白骨だが、それをどう生かすか」と課題を投げ掛けたほか、一人旅の受け入れなどの高齢化対策、旅行機会が減っている若者対策、南信の明るいイメージを生かし、健康と観光を結び付けた「ヘルスツーリズム」を検討するよう求めた。
「首都圏にとっての信州は北信と中信がすべてだった。昼神は名前すら知らなかった」という橘さんは「熱海と違って寂れた感じがせず、各施設に活気がある昼神が中京圏に受ける一因は近さにあるが、それだけでは生きていけないと感じた。自社の実績を生かして首都圏の客に知ってもらえば、パイが増える期待が持てた」と振り返った。
また、同温泉郷がJR東日本の管轄外地域にありながらタイアップが実現したのは、茅野―昼神間のバス運行で値ごろなプランを可能にさせ、利害と直接関係ない立場で対応できる第三セクター「昼神温泉エリアサポート」の存在が大きかったと話し、引き続き長い目で見ながら送客に力を入れる考えを示した。
岡庭村長は「期待に応えるシンポとなった。危機的状況にあるという認識で一致したが、ピンチを自覚し知恵と力を出し合うことでチャンスにできる。今後も広角的に考えながら、南信州のみんなでこの地域の観光を素晴らしいものにしたい」と締めくくった。