
「渋谷系」を聞いて育った松尾が「渋谷系の女王」に新曲をささげた!
【取材・文:仲井勇司、illustration:Remi Matsuo】
5月20日に大阪城音楽堂、28日に東京日比谷野外大音楽堂と、東西2カ所の野外会場でワンマンコンサートを開く飯田下伊那地域出身のロックユニットGLIM SPANKY(グリムスパンキー=松尾レミ&亀本寛貴)。
「爽やかな5月という季節に、少しでも開放的な気分で音楽を楽しんでもらいたい」。そう松尾さんが開催への意欲を語る“野音(やおん)”2公演に加えて、フジロックフェスティバル’22(7月末、新潟県湯沢町)をはじめとする大型イベントへの出演予定も次々に発表されています。新型コロナウイルスへの感染対策徹底を大前提に「僕らがエンターテインメントの仕事をすることで関わってくださる方たちの仕事も回るし、経済も回る」と亀本さんも力説。社会状況にも思いをはせながらプロとしての責任感をにじませます。
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ファッショナブルな存在感で「渋谷系の女王」とも呼ばれた歌手の野宮真貴さん。デビュー40周年を迎える
そうした公演スケジュールの中でグリムスパンキーが新たに手掛けたのが「渋谷系の女王」とも呼ばれたポップシンガー野宮真貴さんへの新曲書き下ろし。2001年まで活動したバンド「ピチカート・ファイヴ」でボーカルを担当するなどしてきた野宮さんのデビュー40周年記念アルバム「New Beautiful(ニュー ビューテフル)」(4月20日発売)に収録される「CANDY MOON(キャンディー ムーン)」を松尾さんの作詞作曲、グリムスパンキーのアレンジ(編曲)で完成させました。
さて「渋谷系」とは、その名の通り東京渋谷の宇田川町(うだがわちょう)を発信源として1990年代に話題となった都市型カルチャーの一大ムーブメント。そして「渋谷系」の音楽の特徴は軽快なビートにレトロ感も散りばめる独特な“おしゃれさ”にありました。野宮さんが在籍したピチカート・ファイヴはまさにそうした音楽の代表格。伝説的な外資系CDショップ「HMV渋谷」(10年に閉店)が商品の陳列区分に“渋谷系”というカテゴリーを設けて販売し始めたことが呼び名のルーツになったとも言われています。
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東京周辺の局地的な流行であった「渋谷系」。それにもかかわらず、当時まだ10歳に満たなかった松尾さんは地元の豊丘村で「渋谷系」に魅了されていました。
「実家がお店(レコード、雑貨などのコレクターズショップ)を営んでいて、父が音楽に詳しく渋谷系にも熱心でした。その影響が大きかった」と松尾さん。「週末は両親に連れられて東京へ出掛けていた」という少女期を過ごして感性が磨かれました。
「野宮さんの大ファンだった母が、ある時、知り合いの方を介して、うちの店で作っていた布製の人形をピチカート・ファイヴにプレゼントさせていただいたことがあったそうです。やがて、野宮さんがその人形をずっと大事にしてくださっているとわかって…。しかも、私がその人形の贈り主の娘だったので(お互いに)とても驚きました」
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東京都内のレコーディングスタジオで野宮真貴さん(左)と
そんな運命的なめぐり合わせも経て、グリムスパンキー作曲、野宮真貴歌唱による“渋谷系リバイバルソング”がついに完成。「いつまでもファッショナブルでキュートな野宮さんにふさわしい仕上がりになったと思う」と松尾さんが胸を張る同曲は、日ごろ骨太なロックを演奏するグリムのイメージとは一線を画す、デート気分のサンシャインポップ。そのギャップの大きさへの驚きを伝えると「こういう音楽も私の素(す)なので…」と松尾さん。
それを聞いた亀本さんは「良質なポップ感覚も、FAT(ファット)(骨太)なロックマインドも、松尾さんは両方内側に持っている。それはいわば(世界的なバンド)ザ・ビートルズのような才能」と冷静に補足。…なるほど、グリムスパンキーはまた一つ新たな曲作りの幅を示すことに成功したようです。
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松尾レミ作詞作曲、GLIM SPANKY編曲による新曲「CANDY MOON」が収録された野宮真貴の最新アルバム「New Beautiful」
この春は松尾さんの歌声をテレビで耳にする機会も増えてきそう。スキンケア用品大手、花王(東京)の「ビオレZ」のCMでは、若手女優の浜辺美波さんが出演する映像の背後に松尾さんの歌声が流れます。画面にクレジット(紹介字幕)は出ませんが、その歌声は一聴しただけでわかる松尾さんのハスキーボイス!
加えて、サントリーウイスキー「角瓶」のCMもグリムスパンキー演奏によるBGMでオンエアが始まりました。誰もがよく知る「ウイスキーが、お好きでしょ」のCMソングを松尾さんがしっとりと歌唱…。詳しくは5月の本欄で紹介します。