県飯田保健福祉事務所の松岡裕之所長は、公益財団法人大同生命厚生事業団による地域保健研究助成事業を受け、市販されている新型コロナウイルスの抗原定性検査キット(簡易キット)の感度調査を行う。一般に流通する簡易キットの品質を調べ、研究成果を12月の日本公衆衛生学会で発表する予定だ。
同財団は大同生命保険が公共の福祉の増進を目的に1974年に設立し、地域保健福祉研究やボランティア活動などの助成、健康小冊子の発行などの活動を続けている。
医薬品の簡易キットは国で調査されるものの、市販キットは研究試薬の名目のため、製品の信頼性や保証がないまま流通している。
「放置しておくのは無責任。誰かがモニタリングすべきだ」と松岡所長。「計画を提出したところ採用してもらうことができた」と同財団に感謝した。
助成額は30万円。研究では、デルタ株などの変異株に対しても感度があるのか、品質が劣るものが流通していないかなどを調べる。
松岡所長は、阿智昼神観光局から、体調が悪くなった宿泊客を医療機関へ搬送する前に簡易キットを活用できないかと相談を受けたことをきっかけに自費での事前研究に着手。
その後も各方面から依頼を受けるなどして調査研究を続け、5種類の市販品である程度(Ct値30~35)の感度があることを確かめた。発熱の症状がある場合や人に感染させる程度のウイルス量がある場合には反応するという。
一方、簡易キットはPCR検査より精度が劣る。ウイルス量が少ない場合は反応しないため「特性を知った上で使用する必要がある」と指摘する。
接触から潜伏期間48時間を過ぎてPCR検査で陽性反応が出ても、簡易キットでの判明はさらに1日遅れる。体内のウイルス量増加が遅い場合もある。飯田保健所管内では接触後、最長で7日目に発症した。
「例えば東京に日帰りで出掛けた場合、次の日に検査しても全く分からない。3日後、さらに7日後に検査する必要がある」とした。
また「簡易キットで陰性ならば感染の有無に関わらず、24時間以内に人に感染させるほどのウイルス量には至らない」という。PCR検査より安価・短時間で実施できるため、成人式などのイベント時や会食の場面での簡易検査として活用できる可能性もあるとした。
松岡所長は35年にわたりハマダラカとマラリア原虫の宿生・寄生体関係の研究を重ね、2018年には日本衛生動物学会賞を受賞。今年4月には、マラリアを含む寄生虫に関する病気の治療法の考案など長年にわたる業績から日本臨床寄生虫学会賞を受賞している。
◎写真説明:簡易キットを調査する松岡所長